単式蒸留器
単式蒸留器はポットスチル(Pot still)とも呼ばれ、モルトウイスキー製造において古くから使用されている蒸留器です。アイリッシュではこの単式蒸留器で3回蒸留されています。
熱効率が高く、発酵されたウォッシュに含まれるチオール化合物という悪臭成分と反応し蒸留の工程で蒸留液から排除することができる銅で作られています。
19世紀初頭のアイルランドでの密造ウイスキーを指すポティーン(Poitin)が語源と言われています。
単式蒸留器の仕組みとしては、発酵されたウォッシュが釜で加熱・気化され、ラインアームを通ってコンデンサー(冷却器)へ運ばれ、冷却されて液体となります。
釜やラインアームの形状や角度などにより、生成される蒸留液の性質の違いをもたらします。
釜の上部には「かぶと」と呼ばれる膨らみがあり、この部分の形状により呼び名があります。
一般的にかぶとの表面積が大きいほど分縮率が上がり、すっきりと軽い味に仕上がることになりますが、スコットランドでは釜の最小容量が400ガロン(2000L)と定めています。
ストレートヘッド型(Straight still) | クビレがほとんどない形状のもの。ネックがまっすぐなため、アルコール以外の成分が多めに残ります。外気に接する面積が小さいため、力強く重厚で複雑な仕上がりになります。 |
バルジ型(Bulge still) | 胴体に膨らみがあり、アルコール以外の成分をあまり残さないためすっきりした仕上がりになります。外気に接する面積が大きいため繊細なウイスキーとなります。 |
ランタンヘッド型(Lanthanum still) | ボディからネックにかけて膨らみがあるのが特徴で、外気に接する面積はストレート型とバルジ型の中間です。重たい香りの成分がヘッドの膨張部で還流されて釜に戻るため、軽くて華やかな香りに富んだスッキリとしたモルトが生まれるのが特徴です。 |
コンデンサーに運ばれる前にかぶとの壁に触れて液体となり、釜に戻ってしまうことを分縮といいます。分縮され釜に戻った液体は再び蒸留されることになるため、その分濃度が高くなります。
釜で気化したアルコールは、ラインアーム(Lyne arm・ラインパイプ)という管を通ってコンデンサーへ運ばれます。アームの角度が上向きの場合、分縮が起きやすくなり軽めの仕上がりになります。
中間にピュアリファイアー(Purifier)と呼ばれる小さな補助冷却装置が取り付けられている場合もあります。
水で覆われたコンデンサー(condenser・冷却器)の中には、古くはワーム(Worm)と呼ばれる螺旋状の銅製チューブに気化したアルコールを蛇管を通し凝縮・液化させるワームタブ方式が主流でした。時間はかかるものの、ナチュラルに重く個性的なウイスキーを作ることができ、現在でもこの伝統的な手法を採用している蒸留所もあります。
近年はシェル&チューブ式(多管式)が主流となっていますが、コンデンサーのなかった時代は木製や金属製の桶で冷却作業を行なっており、この作業のことをワームタブと呼ぶこともあります。
単式蒸留器の加熱方式
- 直火加熱方式(Open fire distill)
ガスや重油を燃やし約1,000℃の直火でゆっくり蒸留する方式。
もろみの一部がトーストされ、キャラメルのような甘い香ばしさを生みだす利点もあり、直火炊きにこだわる蒸留所も存在します。
余市蒸留所では世界で唯一石炭直火蒸留が行われています。
釜の底に沈んだ固形物が焦げつきやすいため、ポットスチルの釜の内部にラメジャー(rummager)と呼ばれる攪拌器がついています。 - 蒸気加熱方式
単式蒸留器内部のパイプに蒸気を通す加熱コイルや加熱缶を置く現在の主流の方式です。 - 外部加熱方式(External heating)
加熱を単式蒸留器の外で行った後で中へ戻す方式です。グレンバーギー、ミルトンダフ、グレングラッサなどで採用されています。
連続式蒸留器
連続式蒸留器はカラムスチル(Column still)もしくはコンティニュアス・スチル(Continuous still)とも呼ばれ、一般的にスコットランドのグレーンウイスキーやアメリカ・カナダで使用されていています。単式蒸留器に比べ、効率的にスピリッツを生成すことが出来るのが特徴です。
箱を積み重ねたような数十段の棚をもつ塔を使用し、1回の蒸留中に棚ごと精溜を繰り返し、アルコール濃度の高い液を連続的に溜出し、雑味が少なく風味の軽いクリアな酒質になります。
もともとグレーンウイスキーも単式蒸留器で作られていたのですが、連続式蒸留器の登場により生産量を格段に向上させることとなりました。
連続式蒸留器の原型は、1826年にスコットランドのロバート・スタインが発明していますが、当時は工業用アルコールやジンの材料を得るために使用されていました。
1831年にイーニアス・カフェが香りや味を残せるように改良した、2塔からなるカフェ式スチル(Coffey still)を発明しました。特許(パテント)をとったためパテントスチル(Patent still)とも呼ばれています。