原料について
穀物
ウイスキーの原料として使用される穀物には以下のようなものがあります。
大麦(Barley)
デンプンをアルコール生成に必要な糖に変える糖化に必要な酵素を持ち、すべてのウイスキーに使用されています。ウイスキーづくり欠かせないことから、スコットランドでは古くはジョン・バーリーコーン(John Barleycorn)と擬人化され親しまれていました。
穂の形状により二条・四条・六条といった種類がありますが、スコッチモルトでは二条大麦を、グレーンやバーボンでは酵素力の強い六条大麦を使うのが一般的です。
また、種を蒔く時期によって、春小麦(Spring Barley)と冬小麦(Winter Barley)と区別されますが、スコッチモルトウイスキーでは春小麦を用いるのが一般的です。
- 二条大麦
粒が大きくデンプン質が多く、またタンパク質が少ないため糖化に適しています。
収穫後直後16%ほどの含水率を、1~2ヶ月ほど自然乾燥させ12%以下まで落とすことで大麦を「眠り」につかせ、1年以上の間発芽を抑え品質を保持しつつ保管することが可能となります。- オプティック種(Optic variety)
スコットランドの気候・風土に適していて、2000年に登場して以降主流になりつつあります。 - ゴールデンプロミス種(Golden promise variety)
1960年代後半に登場後スコットランドに大革命をもたらしたが、改良も進み現在は殆ど存在していません。
- オプティック種(Optic variety)
- 六条大麦
二条大麦に比べデンプン質は少ないものの、酵素力が強く他の穀物をまとめて糖化するために不可欠であり、グレーンウイスキーやバーボンウイスキーに使用されます。- ベア大麦(Bere barley)
大麦の古代品種と言われていて、イギリスでは5,000年位前から広く栽培されていました。近年使用する蒸留所もも増えてきています。
- ベア大麦(Bere barley)
大麦麦芽(モルト:Malt)
大麦と水の中に浸し若干発芽させ、その後成長し続けないよう乾燥処理を施したものです。麦芽作りの職人のことをモルトマン(Maltsman)と呼びます。
小麦(Wheat)
まろやかな味になるのが特徴です。小麦を全体の51%以上使ったものをホイートウイスキーと呼びます。
トウモロコシ(Corn)
アメリカで作られるバーボンウイスキーやコーンウイスキー、グレーンウイスキーの主原料で、イギリスではメイズ(Maize)とも言われます。
馬歯種と呼ばれるデントコーンが一般的に使用され、使用比率が高くなるほど甘味が強くなります。バーボンウイスキーと名乗るには、穀物原料の51%以上がこのコーンである必要があります。
ライ麦
ようなスパイシーな酸味が特徴で、カナディアンウイスキーに欠かせない原料です。
水・仕込み水(Water source)
浸麦や糖化時など様々な工程で使用される水(水源)のことで、一般的に蒸留所が独自に確保した水が使われます。
酵母の生育に好ましいミネラル分がバランス良く含まれる地下水などの軟水(硬度60mg/m)が使われますが、グレンモーレンジィでは硬水を使用しているなど各蒸留所に特徴があります。
酵母(Yeast)
酵母はアルコール発酵のもととなる菌で、上面発酵酵母、液中分散酵母など、ウイスキー製造に適した酵母は数百種あるといわれています。
伝統的にエールビール用のエール酵母が使用されていましたが、近年ではウイスキー醸造向けに開発されたウイスキー酵母の使用が盛んです。また、乾燥イーストや液状イーストといった酵母の使用も増えつつあります。
2種類の酵母を添加して発酵を行うことを混合発酵といい、香りや味わいに相乗効果が生まれます。たとえば、エール酵母を単体で添加すると発酵終了直後に死滅してしまいますが、ウイスキー酵母と混合発酵すると生存期間が長くなり、結果として香味が良くなると言われています。
製麦・モルティング
モルトウイスキー生産において、原料の大麦を発芽させて麦芽を作る工程です。
エタノール(アルコール)は酵母の力を借りてデンプンから生成されますが、酵母だけではデンプンそのものを摂取することはできないため、デンプンをグルコースやマルトースといった糖に分解して摂取させ、次の工程の糖化の役目を担う酵素を大麦自身の中につくらせる為に必要な工程です。
保管・選粒された原料の大麦種子は、スティープ(Steep)と呼ばれる浸麦槽で数時間仕込み水に浸し(浸麦)、水を抜いた後、7~8時間程空気に晒して呼吸を促すドライ・アンド・ウェットという処理を繰り返します。
最終的には含水率を45%ほどまで高め、大麦を「眠り」から覚まし発芽を促します。この状態の大麦をグリーンモルト(Green malt)と言います。
仕込水を十分に吸ったグリーンモルトは製麦工程に入り、デンプンをグルコースやマルトースといった糖に分解して摂取させます。
以前は各蒸留所にある製麦所・モルティングス(Maltings)という施設で行われていましたが、1960年代からはモルトスターと呼ばれる専門業者へ委託することが一般的になっています。
各蒸留所から製法や配合の細かい指示を受けたモルトスターは、コンピューター管理された巨大な乾燥装置を使って麦芽を大量生産しています。代表的な製麦方法として以下のようなものがあります。
- フロアモルティング(Flour Malting)
スコッチの伝統的な製麦法で、モルトハウス(モルトバーン)と呼ばれるコンクリート製の床の上にグリーンモルトを広げ、シール(Shiel)と呼ばれる木製のシャベルを使って数時間おきに撹拌する工程を7~10日ほど続けます。 - ドラム式モルティング(Drum Maltings)
ドラムと呼ばれる回転する巨大な円筒型の容器の中にグリーンモルトを投入し、暖かい空気を送風して、自動で機械的に乾燥させ製麦を行う方法です。一度に大量の麦芽の仕込みが可能なため現在の主流です。 - サラディンボックス方式(Saladin Box)
金属やコンクリートで作られた細長い箱で、大麦が発芽している間、機械によりってかき混ぜる方式です。フランス人シャルル・サラディンが発明しました。
芽の長さが種子の5/8ほどの長さになったら麦芽を乾燥させて発芽を止めます。
かつては蒸留所を象徴する建物であるキルン(Kiln)という麦芽乾燥塔で行われていましたが、現在実際に稼働している蒸留所はほとんどなく、熱風やガスなどで20~40時間掛けて麦芽の含水率を4%程度にまで乾燥させます。
エルギンの建築家チャールズ・クリー・ドイグ(Charles Cree Doig)が設計した東洋風のパゴタ屋根のキルンが有名で、1880年代にはスコットランドで56もの蒸留所が導入していました。
また、キルンではピート炊きでモルトを乾燥させていました。
ピート(Peat・泥炭)とは、草木や水草などが水の中に埋没し腐敗したもので、寒冷地の沼地や湿地などで発掘され、スコットランドでは古くから家庭での燃料として使用されていました。15cm堆積するのに約1,000年かかると言われています。
乾燥燃料としてピート使用することで、スモーキーフレーバーが麦芽に染み込みます。ピートが掘り出された場所や深さ、炭化具合、ピートの焚き時間などによってフレーバーにも違いが出ます。一般的には春に切り出し数ヶ月かけて天日干しされたあとに燃料として使用されます。
- ウイスキーキャット(Whisky cat)
ディスティラリーキャットとも呼ばれ、原料の大麦を食べるネズミや小鳥を退治するために蒸留所で飼われていたネコですが、現在は衛生面の観点からも減少しています。
マッシング・発酵
糖化・マッシング(Mashing)
麦芽中のアミラーゼの力でデンプンをブドウ糖に変え、麦汁を作る工程です。次の発酵工程とともに、ブリュワー(Brewer)と呼ばれる職人・業者がマッシュハウス・タンルーム(Tunroom)で行います。
- アミラーゼ(Amylase、ジアスターゼとも)
デンプンをブドウ糖に分解する糖化酵素です。デンプンの状態では発酵できないため、穀物に含まれるデンプンは酵素を用いてブドウ糖に分解させなければならず、アミラーゼはこのプロセスの中の主要な酵素になります。
乾燥させた麦芽は、ゴミや小石などの異物を除去した上で、デンプン質が分解されやすいようモルトミル(Malt mill)という機械で粉砕させます。各蒸留所により細かくは異なりますが、粉砕された麦芽はその粒の大きさにより以下の比率で区別され、グリストが次の発酵工程へ進みます。
ハスク | 比率:2 | マッシュタンの底へ沈殿して濾過層となり、ウイスキーの濁りを取り除く役割を果たします。この濾過層の形成がうまくいかないと、ウイスキーの出来が落ちてしまいます。 |
グリスト(Grist) | 比率:7 | |
フラワー | 比率:1 |
グリストは温水を混ぜ合わされ糖類を抽出します。
マッシュタンと呼ばれる巨大な円形容器に入れられ、そこに67~70℃の温水の仕込水を加えて攪拌することで、マッシュ(Mash・もろみ)と呼ばれる約65度のお粥状態となります。 すると麦芽中のデンプンに分解酵素が作用し、デンプンが糖に分解されて温水中に溶け出します。この状態の液体をウォート(Worts・麦汁・糖液)と呼びます。
- マッシュタン(Mashtun)
糖化槽・仕込槽とも呼ばれます。バーボンの場合はクッカーと呼ばれます。
元々は鉄や銅製でしたが、現在ではステンレス製が主流です。
内部にはレーキという熊手状の撹拌翼が付いていて、レーキが固定式のものをセミロイター式、上下に移動するものをフルロイター式と呼びます。また、底部にはアンダーバック(Underback)と呼ばれるウォートを回収する容器があります。 - ドラフ(Draff)
ウォートを抽出した後の麦芽の搾りカスのことを指します。高タンパクで高栄養価のためそのまま家畜の飼料として利用されていましたが、現在では初留釜で蒸留後に残ったスペントウォッシュと加工し、ダークグレーン(Dark grain)と呼ばれる家畜用飼料に加工されています。
この工程は一般的に3~4回前後繰り返されます。
最初に採取された一番麦汁のウォートは糖度が約20度、二番麦汁は5度程度で、これらが次の発酵の工程にかけられます。3回目以降の仕込み水を加える工程をスパージ(Sparge)と言い、糖度が少なく発酵にはかけられないものの、次回の糖化用の温水として再利用されます。
グレーンウイスキーの場合、蒸煮した穀物に大麦麦芽を加えて同様に糖化させます。仕込み工程ともいわれます。
- サワーマッシュ法(Sour mash)
前回蒸留の際生じたスティレージ(Stillage、アルコール分が取り除かれた残液)の上澄みを、新しく糖化させようとするコーンなどの仕込み水に25%ほど加える方法で、バーボンウイスキー製造で採用されている手法です。これにより、糖化条件がよくなり酵母の栄養が補給され、製品の香味が増すといわれています。
酵母を培養する際に、乳酸菌を生育させてPHを下げ雑菌の繁殖をおさえる手法もサワーマッシュ法と呼ばれます。
発酵(Fermentation)
発酵工程ではウォートに酵母を加え、アルコール度数7%ほどのアルコールと炭酸ガス作り出す工程です。
抽出直後のウォートは60~70℃程で、そのまま酵母を加えると酵母が死んでしまうため、ヒートエクスチェンジャー(Heat exchanger、ウォートクーラーWort coolerとも)により20℃ほどまで冷却されます。
冷却されたウォートは、ウォッシュバックと呼ばれるといった発酵槽に移され、そこで酵母が投入されます。一度に使用される酵母の量は200kg近くです。
- ウォッシュバック(Wash back・発酵槽)
冷却したウォートと酵母を混ぜ合わせる大きな樽のことです。9,000L~45,000Lと大型のステンレス製のものが一般的です。発酵により蓋が吹き飛ばないよう、スイッチャー(switcher)と呼ばれる泡切り器がついています。- 木桶発酵樽
昔ながらの木製の発酵槽です。温度管理や清掃がしにくいというデメリットがありますが、保湿性に優れ上面酵母が活性化しやすいだけでなく、乳酸菌などの微生物が多く含まれていることから味わいが豊かになります。
- 木桶発酵樽
- ファーメンター(Fermentar)
バーボンウイスキーにおいては、発酵槽のことをファーメンターとも呼びます。
発酵工程は2~4日間行われ、7~9%程度のウォッシュ(Wash・発酵もろみ・発酵液)と呼ばれるビールのようなアルコールが発生します。
- ビアウェル(Beerwell)
バーボンウイスキーにおいて、発酵が終わったモロミが蒸留工程に移される途中に用意されている容器のことを指します。連続式蒸留の場合、ファーメンターから直接送るわけではなく、巨大なステンレス製のビアウェルと呼ばれるタンクにモロミを貯め、連続式にポンプで蒸留器の上部から投入します。
発酵工程はかける時間が長いほどウォッシュの酸味が強くなります。
これは酵母による発酵が不可能な非発酵性糖をもとに乳酸菌が乳酸を生成するためです。
酵母の活動は投入後1~2日ほどの間ですが、その後乳酸菌が入れ替わって活動しはじめます。乳酸菌は酸味だけでなく、エステル(香り付け)グリセロール(味つけ)といった様々な成分を生成するため、ウイスキーづくりに重要な役目を果たしています。
蒸留
単式蒸留器での蒸留
ウォッシュを蒸留器にかけてアルコール濃度の高い酒をとり出す工程で、スチルハウスと呼ばれる蒸留塔で行われます。
水の沸騰点(100度)とエチルアルコールの沸騰点(78.325度)の差を利用し、優先されて蒸発したアルコールの蒸気を冷却して高濃度の酒を生成します。蒸留には単式蒸留器(Pot still)が使用されます。
エタノール濃度を十分に高めるため、スコッチではポットスチルで2回蒸留(初留・再留)されますが、オーヘントッシャンなど一部の蒸留所では、再々留と呼ばれる3回蒸留を行なっているところもあります。
初留
初留ではウォッシュスチル(wash still・初留釜)を用いて5~8時間蒸留され、20~25%前後に上昇したローワイン(low wines・初留液)が得られます。
ローワインはスチルの首からラインアームを通ってコンデンサへ運ばれ、冷却され再び液化した後、再留釜へと移されます。この段階でウォッシュに含まれるエタノールはほぼすべて気化されます。
- スペントウォッシュ(Spent wash)
初留釜に残された溶液のことでポットエール(Pot ale)とも言います。ドラフとともにダークグレーンとして家畜用飼料に加工されます。
再留
再留は、ローワインスチル(low wines still)・スピリッツスチル(spirit still)と呼ばれるウォッシュスチルより小さな再留釜で行われます。アルコールの濃縮以外にも香味成分の選別として重要な工程です。
再留は前留・本留・後留の三段階からなり6~8時間かけて行われますが、前留・後留で生成された蒸留液は後続の熟成工程へ進まず、ローワインと混ぜられ次回再留にかけられます。この工程をミドルカットと言います。
前留(10~30分) | 抽出される蒸留液はフォアショッツ(Foreshots、ヘッドとも)と呼ばれ、揮発性と刺激性が強いため排除されます。(前留カット) |
本留(1~2時間) | 抽出される蒸留液はミドルハート・ハーツと呼ばれ、コンデンサを通り次の熟成工程へ進みます。ニューポット(New pot)・ニュースピリッツ(New make spirits)とも呼ばれる無色透明の液体です。 |
後留(5~7時間) | 抽出される蒸留液はフェインツ(feints、テールとも)と呼ばれ、揮発性が低く味を落とす成分が多く含まれているため排除されます。(後留カット) |
- スチルマン(Still man)
再留・ミドルカットを担当する職人を指します。スピリッツセーフ(sprit safe)と呼ばれるガラス箱の装置の中にある温度計とアルコール比重計を操作しながら作業を行ないます。
蒸留工程終了時のアルコール度数は、モルトウイスキーでは60~70%、グレーンウイスキーでは93度前後になります。
チャコール・メロウイング
バーボンやテネシーウイスキー特有の製造工程です。
蒸留後の原酒をサトウカエデの木炭層で一滴一滴濾過することで、なめらかな味わいを生み出します。
テネシーウイスキーは蒸留直後に濾過しますが、バーボンの場合は一般的に樽熟成後にこの工程が行われます。
熟成・後熟・加水・瓶詰め
熟成(Aging)
蒸留の終わったニューポットを樽で長時間貯蔵する工程です。ウイスキー製造期間の99%の時間がこの工程に費やされており、味わいや香りに与える影響が非常に大きい工程です。
熟成の歴史は明らかになっていませんが、17世紀のスコットランドでウイスキーが厳しい課税対象となった際に酒税官吏の目から逃れるように樽ごと地中に埋めて隠していたことが始まりと言われています。
一方、スペインのシェリーやポルトガルのマデイラワインなどは古くからお酒の熟成文化があったため、それをウイスキーに応用させたとも言われています。
この工程ではまず、度数70度前後のニューポットに加水を行ない、63.5%程まで下げます。
これにより樽材に含まれているエタノリシスという成分を活動させ、ウイスキーの品質を基礎づける高分子成分を分解させます。加水後された原酒はフィリングス(fillings)と呼ばれ、フィリングステーションで木製の樽に移し替えられ長い熟成が始まります。
- エージング・セラー(Aging Seller)
熟成中の樽を保管する倉庫のことです。倉庫は免税扱いされていることから保税倉庫とも呼ばれます。冷涼で澄んだ空気の地が望ましいと言われています。
樽の中に入れられた無色透明のニューポットは、貯蔵開始から半年ほどで淡い黄色に、2~3年で黄褐色に、さらに明るく輝くような琥珀色(Amber)となった後、赤味を帯びてきます。この色の変化は、樽から溶け出したタンニン・リグニンといった成分の作用によるものです。また、熟成が進むにつれ、エタノールの刺激的な臭いは次第に消え、まろやかで上品な酒質になります。
スコットランドでは3年以上の熟成期間が法定されていますが、熟成による品質の向上は10~12年にわたって続くと言われています。モルトウイスキーの場合、18~20年間の熟成させたものが最も味わい深いと言われています。
熟成中のウイスキーは気圧・気温などの変化により、年々僅かながら蒸発していきます。
これはエンジェルシェア(Angel’s Share・天使の分け前)と呼ばれ、ウイスキーの一部を天使に献上することでより美味しくなるとされています。
スコットランドの場合、熟成1年目で3~4%、それ以降は毎年1~2%ずつ樽の中身が減少していくと言われています。バーボン州はスコットランドよりも温暖な気候のため、1年目は10~18%が、2年目以降も4~5%が蒸発していくと言われています。
また、熟成後に樽からウイスキーを出した際に樽に残ったものはデビルズカット(Devil’s Cut・悪魔の取り分)と呼ばれます。
バーボンウイスキーでは使用済の樽をスコッチやジャパニーズなどの蒸留所に売るため、デビルズカットは新たな原酒の香り付けの役割を果たしますが、空き樽に水を浸し浸ませて抽出した、デビルズカットのバーボンウイスキーなども販売されています。
樽の保管方法
樽を縦向きに静置した場合樽の側板に負担がかかり中身が漏れやすくなるため、基本的には樽は横向きに倒して静置します。同じ貯蔵庫でも、低い位置は温度変化が少なく高湿度、高い位置は温度変化が激しく低湿度な傾向にあるため、仕上がりに差が生じてきます。
- ラック式・ラッキング式
現在の一般的な静置方法で、予め鉄製の巨大な棚で仕切って10段以上にわたって静置します。段数により仕上がりの違いが顕著に表れます。 - ダンネージ方式(Dunnage)
床に輪木という木製のレールを敷き、静置した樽の上に敷いた板の上にさらに樽を静置し、3~4段ほど積み上げる伝統的な方式です。 - オープンリック式(Openrick)
ラック式の一種で、バーボンウイスキーでの一般的な貯蔵方法です。
バーボンバレルを活かすために1段に3~4樽、7層建てくらいのトータル20数段の樽を高層式の熟成方法です。
積み重ねた樽の中でも屋根の下から1~2段が熟成に適していると言われており、イーグルズネスト(Eagle’s nest、鷲の巣)と呼ばれますが、一方で苦味成分であるタンニンが多く溶出するため、サイクリングといって棚の位置をローテーションさせるのが一般的です。
熟成樽は、クーパー(Cooper)と呼ばれる樽職人により製造・管理されています。
樽作りには釘も接着剤も使わず、締め輪(Hoop)と呼ばれる鉄製のタガで何十年もウイスキーを密閉する樽をつくります。木材は乾燥すると収縮するため、樽に加工してから収縮し隙間を生じさせないよう、木材の乾燥は数年間の自然乾燥によって行われます。
また、乾燥による収縮度の違いから樽に歪みが生じないよう、乾燥が同程度に進んだ木材を使用するなど常に最新の注意と集中力が必要です。蒸留所によっては木桶発酵樽の製造・修理も行う場合もあります。
後熟・マリッジ(Marriage)
異なる樽で熟成させたウイスキーを混合し、数か月~1年ほど再度熟成させ、エタノールの刺激的な味にまろやかさが出てきたり、別の香味が加える工程です。追熟(フィニッシュ)や、フランス語の「結婚・融合」を意味する「マリアージュ」からマリッジとも呼ばれます。
ブレンデッドにおいて、原酒を1度にブレンドせず、最初にモルト原酒のみで熟成しグレーンをブレンドして再び熟成するダブルマリッジという製法もあります。
混合させる原酒により名称が異なります。
ヴァッティング・ブレンディングを行なう技術者はブレンダー(Blender)と呼ばれ、ブレンダーの長をチーフブレンダー、最高責任者をマスターブレンダーと呼びます。
- ヴァッティング(Vatting)
モルトウイスキー同士、もしくはグレーンウイスキー同士を組み合わせることを指します。「大きな桶」というヴァット(Vat)が由来です。スコットランドでは、同一蒸留所内でのヴァッティングは1853年から、異なる蒸留所間では1860年に認められました。 - ブレンディング(Blending)
モルトウイスキーとグレーンウイスキーを組み合わせることを指します。カナディアンクラブでは、熟成前にブレンドするプレ・ブレンディング(Pre Blending)手法をとっています。
混合が行われず、単一の樽から抽出されたウイスキーはシングルカスク・シングルバレルと呼ばれ、樽ごとの風味の違いを楽しむことができます。
加水・リデューシング(Reducing)
原酒に水を加え、アルコール度数40%程(ボトル度数)へ薄める工程です。
加水せず50~60%程の度数のまま瓶詰めされた場合カスクストレングス(Cask Strength)と呼ばれます。
低温濾過・チルフィルタリング(chill filtering)
加水により成分の一部が白濁化することを防ぐため、0℃近い状態で濾過を行い、白濁化の原因となる脂肪酸を取り除く工程です。成分の析出によるウイスキーの濁りを指摘する消費者の声に応える形で1960年代から行われるようになっています。
濾過されているのは香味成分の一部だとも言われていて、この工程を行わない場合もあり、ノンチルフィルタード(Non-chill filtered、ノンチル)と呼ばれます。
瓶詰め
蒸留所やそのオーナー・親会社によって瓶詰めされたボトルをオフィシャル・蒸留所元詰めと言います。
一方で、蒸留所から樽の買い付けを行ない、独自の保税貯蔵庫や瓶詰め施設をもつ会社(ボトラーズカンパニー)から販売されるボトルをボトラーズブランドといいます。
また、瓶詰め工程から請け負う業者はインディペンデントカンパニー、マーチャン・ボトラーといい、彼らによる製品はインディペンデント・ブランドと呼ばれます。