ウイスキーの一般的な製法(スコッチモルトウイスキー)

スコッチモルトウイスキーの一般的な製法について纏めます。

製麦・モルティング/Malting

原料の大麦を発芽させて麦芽を作る工程です。
エタノール(アルコール)は、酵母の力を借りてデンプンから生成されますが、酵母だけではデンプンそのものを摂取することはできないため、デンプンをグルコースやマルトースといった糖に分解して摂取させ、次の工程の糖化の役目を担う酵素を大麦自身の中につくらせる為に必要な工程です。

保管・選粒された原料の大麦種子は、スティープ/Steepと呼ばれる浸麦槽で数時間仕込水に浸し(浸麦)、水を抜いた後、7~8時間程空気に晒して呼吸を促すといった処理を繰り返します。(ドライ・アンド・ウェット)
最終的には含水率を45%ほどまで高め、大麦を「眠り」から覚まし発芽を促します。この状態の大麦をグリーンモルト/Green maltと言います。

仕込水を十分に吸ったグリーンモルトは製麦工程に入り、デンプンをグルコースやマルトースといった糖に分解して摂取させます。

製麦は、以前は各蒸留所の製麦所・モルティングス/maltingsで実施されていましたが、7~10日の時間と熟練の技を必要とするため、1960年代からはほとんどの蒸留所がモルトスターと呼ばれる専門業者へ委託しています。
各蒸留所はモルトスターに対し製法や配合の指示し、モルトスターはコンピューター管理された巨大な乾燥装置を使って麦芽を大量生産しています。代表的な製麦工程は以下のようなものがあります。

フロアモルティング/Flour malting
モルトハウスまたはモルトバーンと呼ばれるコンクリート製の床の上に広げられ、シール/Shielと呼ばれる木製のシャベルを使って4~6時間おきに撹拌され、均一に発芽を進行させる方法です。
ドラム式モルティング/drum maltings
ドラムと呼ばれる巨大な円筒型の容器の中で、機械的に製麦を行う方法です。
サラディンボックス方式/saladin box
サラディンボックスは、金属やコンクリートで作られた細長い箱で、大麦が発芽している間、機械によりってかき混ぜる方式。フランス人シャルル・サラディンが発明しました。

 

スコットランドでこの乾燥の際に使われるのがピート/Peatです。
かつてはピート炊きのみでモルトを乾燥させていましたが、現在は一部の蒸留所を除いては、熱風やガスなども併用し、合計で20~40時間掛けて含水率4%程度にまで乾燥させます。

ピート/Peat
泥炭とも言われ、草木や水草などが水の中に埋没し腐敗したもので、沼地や湿地などで発掘されます。
乾燥燃料としてピート使用することで、スコッチモルトウイスキー特有の香りの一つとなる”スモーキーフレーバー”が麦芽に染み込みます。
スモーキーフレーバーの内容は、ピートが掘り出された場所や深さ、炭化具合、ピートの焚き時間などによって違いが出ます。

キルン塔/Kiln
スコットランドで伝統的にある麦芽乾燥塔です。
エルギンの建築家チャールズ・クリー・ドイグ/Charles Cree Doigが設計した、パゴタ屋根のキルン塔が有名で、1880年代にはスコットランドで56もの蒸留所が導入していました。
蒸留所を象徴する建物ですが、近年で実際に稼働している蒸留所はほとんどありません。

ウイスキーキャット/Whisky cat
ディスティラリーキャットとも呼ばれ、原料の大麦を食べるネズミや小鳥を退治するために蒸留所で飼われていたネコですが、現在は衛生面の観点からも減少しています。

仕込み・糖化・マッシング/Mashing

大麦麦芽中のアミラーゼの力でデンプンをブドウ糖に変え、麦汁を作る工程です。
次の発酵工程とともに、ブリュワー/Brewerと呼ばれる職人がマッシュハウス・タンルーム/Tunroomと呼ばれる作業所で行います。

アミラーゼ/Amylase
デンプンをブドウ糖に分解する糖化酵素です。
デンプンの状態では発酵できないため、穀物に含まれるデンプンは酵素を用いてブドウ糖に分解させなければならず、アミラーゼはこのプロセスの中の主要な酵素になります。

乾燥させた麦芽は、ゴミや小石などの異物をを除去した上で、デンプン質が分解されやすいようモルトミル/Malt millという機械で粉砕させます。
粉砕された麦芽はグリスト/Gristと呼ばれ、その粒の大きさにより以下のような名前がつけられます。○の数字が一般的な挽き分けの比率ですが、各蒸留所は微調整を加えてそれぞれの個性を出しています。

ハスク②:マッシュタンの底へ沈殿して濾過層となり、ウイスキーの濁りを取り除く役割を果たします。この濾過層の形成がうまくいかないと、ウイスキーの出来が落ちてしまいます。
グリスト⑦:
フラワー①:

マッシング/Mashing

グリストと温水を混ぜ合わせ、糖類を抽出する工程です。
グリストはマッシュタンと呼ばれる円形容器に入れられ、そこに67~70℃の温水の仕込水を加えて攪拌することで、マッシュ/Mash(もろみ)と呼ばれる63~4度のお粥状態となります。

すると麦芽中のデンプンに分解酵素が作用し、デンプンが糖に分解されて温水中に溶け出します。この状態の液体をウォート/Worts(麦汁・糖液)と呼びます。

マッシュタン/Mash tun(糖化槽・仕込槽)
元々は鉄や銅製でしたが、現在ではステンレス製が主流となっています。
マッシュタンの底には、アンダーバック/Underbackと呼ばれる容器があり、ウォートはここに集められます。

この工程は、一般的に3~4回前後繰り返されます。
最初に採取された一番麦汁のウォートは糖度が約20度、二番麦汁は5度程度で、これらが次の発酵の工程にかけられます。3回目以降の仕込み水を加える工程をスパージ/Spargeと言い、糖度が少なく発酵にはかけられないものの、次回の糖化用の温水として再利用されます。

ドラフ/Draff
ウォートを抽出した後の麦芽の搾りカスのことを指します。
高タンパクで高栄養価のためそのまま家畜の飼料として利用されていたが、現在では初留釜で蒸留後に残った廃液と加工し、ダークグレーン/Dark grainと呼ばれる家畜用飼料に加工されています。

発酵Fermentation

発酵工程ではウォートに酵母を加え、アルコール度数7%ほどのアルコールと炭酸ガス作り出す工程です。

抽出直後のウォートは60~70℃程あり、そのまま酵母を加えると酵母が死んでしまうため、熱交換機(ヒートエクスチェンジャー、ワーツクーラー)により20℃ほどまで冷却されます。

冷却されたウォートは、ウォッシュバックと呼ばれる9,000Lや45,000Lといった発酵槽に移され、酵母が投入されます。一度に使用される酵母の量は200kg近くです。

発酵槽・ウォッシュバック/Wash back
現在ではステンレス製のものが一般的ですが、昔ながらの木製のものを使用している蒸留所もあります。木材には乳酸菌等の成分が多く含まれていることから味わいが豊かになるものの、温度管理や清掃がしにくいという点でコストがかかります。
スイッチャー/switcherと呼ばれる泡切り器がついています。

発酵工程は2~4日間行われ、7~9%程度の発酵もろみ・ウォッシュ/Washと呼ばれるアルコールが発生します。発酵液とも言われビールのようなものです。

発酵工程にかける時間が長いほど、ウォッシュの酸味が強くなります。
これは、酵母による発酵が不可能な非発酵性糖をもとに乳酸菌が乳酸を生成するためです。
酵母の活動は投入後1~2日ほどの間ですが、その後乳酸菌が入れ替わって活動しはじめます。
乳酸菌は酸味だけでなく、エステル(香り付け)グリセロール(味つけ)といった様々な成分を生成するため、ウイスキーづくりに重要な役目を果たしています。

蒸留

ウォッシュを蒸留器にかけてアルコール濃度の高い酒をとり出す工程で、スチルハウスと呼ばれる蒸留塔で行われます。

水の沸騰点(100度)とエチルアルコールの沸騰点(78.325度)の差を利用し、優先されて蒸発したアルコールの蒸気を冷却して高濃度の酒を生成します。

蒸留にはポットスチルと呼ばれる銅製の単式蒸留器を用いられます。
エタノール濃度を十分に高めるため、スコッチではポットスチルで2回蒸留(初留・再留)されます。
オーヘントッシャン等一部の蒸留所では、再々留と呼ばれる3回蒸留を行なっているところもあります。

初留

初留では初留釜・ウォッシュスチル/wash stillを用いて5~8時間蒸留され、21%前後に上昇した初留液・ローワイン/low winesが得られます。ローワインはスチルの首からラインアームを通ってコンデンサへ運ばれ、再び液化した後、再留釜へと移されます。

この段階でウォッシュに含まれるエタノールはほぼすべて気化されます。
初留釜に残された溶液をスペントウォッシュ/Spent wash・ポットエール/Pot aleといい、前述のドラフとともに家畜用の飼料となります。

再留

再留では、ウォッシュスチルより小さな再留釜・ローワインスチル/low wines still・スピリッツスチル/spirit stillを用いて、アルコール70%ほどのニューポット・ニュースピリッツが生成されます。アルコールの濃縮以外にも香味成分の選別として重要な工程です。

再留は前留・本留・後留の三段階からなり6~8時間かけて行われますが、前留・後留で生成された蒸留液は後続の熟成工程へ進まず、ローワインと混ぜられ次回再留にかけられます。この工程をミドルカットと言います。

工程名 抽出される蒸留液 処理方法
前留(10~30分) ヘッド
フォアショッツ/foreshots
揮発性と刺激性が強いため排除(前留カット
本留(1~2時間) ミドル
ハート
次の熟成工程へ進む。
後留(5~7時間) テール
フェインツ/feints
揮発性が低く味を落とす成分が多く含まれているため排除(後留カット

本留で生成された蒸留液はニューポット/New potニュースピリッツ/New make spiritsと呼ばれるようになります。この時点ではまだ無色透明です。

スチルマン/Still man
再留・ミドルカットを担当する職人を指します。スピリッツセーフ/sprit safeと呼ばれるガラス箱の装置の中にある温度計とアルコール比重計を操作しながら作業を行ないます。

熟成

蒸留の終わったニューポットを樽で長時間貯蔵する工程です。
フィリングステーションで樽詰めされた後、ウェアハウスで長期間貯蔵されることとなります。ウイスキー製造期間の99%の時間がこの工程に費やされており、味わいや香りに与える影響が非常に大きい工程です。

度数70度前後のニューポットに加水を行ない、63.5%程まで下げます。
これにより樽材に含まれているエタノリシスという成分を活動させ、ウイスキーの品質を基礎づける高分子成分を分解させます。

加水後、その後木製の樽に移し替えられ、ウェアハウスでの長い熟成が始まります。

熟成庫・ウェアハウス
熟成庫は免税扱いされていることから保税倉庫とも呼ばれます。

スコットランドでは3年以上の熟成期間が法定されていますが、品質の向上は10~12年にわたって続くと言われています。モルトウイスキーの場合18~20年間の熟成させたものが最も味わい深いと言われています。

熟成のはじまり
熟成の歴史は明らかになっていませんが、17世紀のスコットランドでウイスキーが厳しい課税対象となった際に酒税官吏の目から逃れるように樽ごと地中に埋めて隠していたことが始まりと言われています。一方、スペインのシェリーやポルトガルのマデイラ・ワインなどは当時からお酒の熟成文化があったため、それをウイスキーに応用させたとも言われています。

樽の保管静置する方法も以下のような種類があります。
樽を縦向きに静置した場合樽の側板に負担がかかり中身が漏れやすくなるため、いずれの静置方法でも基本的には樽は横向きに倒して静置します。
同じ貯蔵庫でも、低い位置は温度変化が少なく高湿度、高い位置は温度変化が激しく低湿度な傾向にあるため、仕上がりに差が生じてきます。

ダンネージ方式
静置した樽の上に敷いた板の上にさらに静置する。3段ないし4段ほど積み上げる。

ラック式
貯蔵庫を予め複数段の床で仕切ってから静置。10段以上にわたって静置。
静置された段数により、仕上がりの違いが顕著に表れます。

樽の中に入れられた無色透明のニューポットは、貯蔵開始から半年ほどで淡い黄色に、2~3年で黄褐色に、さらに明るく輝くような琥珀色となった後、赤味を帯びてきます。この色の変化は、樽から溶け出したタンニン・リグニンといった成分の作用によるものです。
また、熟成が進むにつれ、エタノールの刺激的な臭いは次第に消え、まろやかで上品な酒質になります。

熟成中のウイスキーは気圧・気温などの変化により、年々僅かながら蒸発したり、ウイスキーの酸化を促したりします。

天使の分け前・エンジェルシェア/Angel’s Share
ウイスキーが樽で熟成中に蒸発することを指し、ウイスキーの一部を天使に献上することでより美味しくなるとされています。
スコットランドの場合、熟成1年目で3~4%、それ以降は毎年1~2%ずつ樽の中身は減少していくと言われています。
バーボン州はスコットランドよりも平均気温が高いため、1年目は10~18%が、2年目以降も4~5%が蒸発していくと言われています。

悪魔の取り分・デビルズカット/Devil’s cut
熟成後に樽からウイスキーを出した際に樽に残ってしまう分。通常バーボンウイスキーでは使用済の樽をスコッチやジャパニーズなどの蒸留所に売るため、デビルズカットは新たな原酒の香り付けの役割を果たす。空き樽に水を浸し浸ませて抽出した、デビルズカットのバーボンウイスキーも存在する。

熟成後

熟成を終えたウイスキーは加水、後熟、低温濾過という過程を経て瓶詰めされ出荷されます。

後熟・マリッジ/Marriage

異なる樽で熟成させたウイスキーを混合(ヴァッティング・ブレンディング)し、数か月ないし1年間貯蔵することを後熟といいます。
フランス語の「結婚・融合」を意味する「マリアージュ」からきていて、これによりエタノールの刺激的な味にまろみが出てきます。

混合を行わなかった場合シングルカスクと呼ばれます。

ヴァッティング/Vatting
モルトウイスキー同士、もしくはグレーンウイスキー同士を組み合わせることを指します。「大きな桶」というヴァット(Vat)が由来です。
スコットランドでは、同一蒸留所内でのヴァッティングは1853年から、異なる蒸留所間では1860年に認められました。
一方で、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを配合することをブレンディング/Blendingといいます。ブレンデッドウイスキーの場合、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをそれぞれ個別に混合させた上で両者を混合させ樽に入れます。技術者をブレンダーと言い、ブレンダーの長をチーフブレンダー、最高責任者をマスターブレンダーと呼びます。

加水

アルコール度数を調整する工程で、リデューシング/Reducingも言われます。
加水しない場合をカスクストレングスといいます。

低温濾過・チルフィルタリング/chill filtering

加水により成分の一部が白濁化することを防ぐため、0℃近い状態で濾過を行い取り除く工程です。
成分の析出によるウイスキーの濁りを指摘する消費者の声に応える形で1960年代から行われるようになっています。
実際に濾過されているのは香味成分の一部だとも言われていて、この工程を行わない蒸留所・メーカーもあります。(ノンチルフィルタード)

瓶詰め

蒸留所やそのオーナー・親会社によって瓶詰めされたボトルをオフィシャル・蒸留所元詰めと言います。

一方で、ボトラーズ・カンパニーと呼ばれる、蒸留所から樽の買い付けを行ない、独自の保税貯蔵庫や瓶詰め施設をもつ会社から販売されるボトルをボトラーズ・ブランドといいます。

また、瓶詰め工程から請け負う業者をインディペンデント・カンパニーといい、彼らに寄る製品はインディペンデント・ブランドといいます。

 

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